生成AIを使うと、仕事は速くなります。
メールを書く。文章を要約する。企画のアイデアを出す。資料のたたき台をつくる。データを整理する。プログラムを書く。
以前なら30分かかっていた仕事が、数分で終わることも珍しくありません。
では、私たちはその分、楽になったのでしょうか。
少し不思議なことが起きています。
AIによって一つひとつの仕事は速くなったのに、仕事そのものは減っていない。
むしろ、AIを積極的に使う人ほど、以前より多くの仕事を抱えるようになる可能性さえ指摘されています。
AIは、できなかった仕事まで「できる仕事」に変えてしまう
生成AIが登場する前なら、諦めていた仕事があります。
専門知識がない。時間がない。人手がない。外部へ依頼するほどではない。
そんな理由で、やらなかった仕事です。
ところがAIがあると、
「これも自分でできるかもしれない」
と思えるようになります。
マーケティング担当者が簡単なプログラムを書く。営業担当者がデータを分析する。管理職がプレゼン資料だけでなく、動画やWebページまでつくる。
できることが増えるのは、もちろん悪いことではありません。
問題は、
できることが増えると、やることまで増えてしまうことです。
生成AIを使った組織的なイノベーション活動を調査した2026年の研究では、AI活用によって試行、レビュー、修正、調整など新しい仕事が生まれ、仕事の高密度化につながる現象が報告されています。
国際労働機関(ILO)も、AIには生産性を向上させる可能性がある一方で、仕事の高密度化や自律性の低下など、働く人への心理社会的リスクがあると指摘しています。
出典:国際労働機関
つまり、
AIで仕事が速くなることと、人の仕事が減ることは、同じではありません。
「もう一回AIに聞いてみよう」が終わらない
AIには、もう一つ特徴があります。
やり直すコストが、とても低いことです。
少し違う。もう少し短く。別の案も。もっと良くできないか。違う切り口で。もう一回。
人に依頼するなら遠慮するような修正でも、AIには何度でも頼めます。
そして返事はすぐに返ってきます。
Forbesが紹介した「AIバーンアウト」に関する議論でも、AIによってできることが増えた結果、利用者がより多くのプロジェクトを抱え、仕事を終えることが難しくなる問題が取り上げられています。
出典:Forbes
便利だから使う。使えるから、もっとやる。もっとできるから、さらに仕事を増やす。
AIは仕事を短くする一方で、仕事の終わりを遠ざけることもあるのです。
AIを使うこと自体が、新しい仕事になっていないか
もう一つ考えたいことがあります。
私たちは今、AIを使うためにかなりの仕事をしています。
AIに何をさせるか考える。プロンプトを書く。必要な資料を探す。AIに渡す。出力を読む。間違っていないか確認する。修正を指示する。結果をコピーする。別のシステムへ入力する。そして、またAIに指示する。
もちろん、それでも従来より速い仕事はたくさんあります。
ただ、ここで一度立ち止まって考える必要があります。
人が仕事をするためにAIを使っているのか。
AIを働かせるために、人が仕事をしているのか。
この境界が、少しずつ曖昧になっているのではないでしょうか。
AIが代わりに考えてくれる。それは本当に「楽」なのか
AIが減らすのは、作業だけではありません。
考える負担も減らしてくれます。
何を書けばいいか分からなければ聞く。企画が思いつかなければ聞く。判断に迷ったら聞く。文章を読むのが大変なら要約してもらう。
それ自体は非常に便利です。
しかし、便利さには別の側面もあります。
Microsoft Researchなどの研究者が319人のナレッジワーカーを対象に行った研究では、実際の仕事における936件の生成AI利用事例を調査しています。
その結果、生成AIへの信頼が高いほど、批判的思考を働かせる傾向が低くなる関連が確認されました。
出典:Microsoft
これは「AIを使うと人は考えなくなる」と単純に断定できる話ではありません。
むしろ研究では、AIによって人間の思考の役割が、
情報をつくることから、
AIが出した情報を検証し、統合し、最終的な仕事として成立させることへ変化している
とも指摘されています。
出典:Microsoft
だからこそ重要なのは、
AIに何を考えさせるかではなく、人は何を考え続けるのか。
なのかもしれません。
「AIを使いこなせる人」が評価される会社でいいのか
企業のAI活用では、
「社員のAIリテラシーを高める」
という言葉がよく使われます。
もちろん、AIについて理解することは必要です。
しかし、
プロンプトを書くのが上手い。たくさんのAIツールを知っている。AIを使って大量の成果物をつくれる。
それだけで、その人が仕事のできる人だと評価されるようになったらどうでしょう。
営業で本当に重要なのは、AIを操作することなのでしょうか。
顧客の話を聞くこと。相手が言葉にしていない課題に気づくこと。信頼関係をつくること。最後に責任を持って提案すること。
そうした能力の方が、本来は重要だったはずです。
経営でも同じです。
AIにたくさん質問できることより、
何を決めるべきなのかを考え、その結果に責任を持つこと。
それは人の仕事です。
AIが普及するほど、
AIを使う能力と、本来の仕事をする能力を混同しないこと
が重要になってくるのではないでしょうか。
AIを「使う」ことを、減らしていく
ここで、少し逆の発想をしてみます。
会社のAI活用を進めるために、
社員がもっとAIを使う。もっとプロンプトを覚える。もっとAIツールを使いこなす。
本当に、それだけが進化なのでしょうか。
私たちはむしろ、
人がAIを使う回数そのものを減らしていく
という方向もあると考えています。
例えば営業担当者なら、
仕事を始めるたびにAIを開く必要はない。顧客情報をコピーしてAIに渡す必要もない。「今日やるべきことを教えて」と毎朝入力する必要もない。
AIの側が役割を持ち、必要な情報を確認し、仕事を進めている。
変化があれば知らせる。
判断が必要なら人に戻す。
人はAIを操作するのではなく、
営業の仕事をする。
それだけです。
AIを意識しなくても、AIと働いている
Excelを使う。Wordを使う。生成AIを使う。
これらは、人が道具を操作するという意味ではよく似ています。
しかしAIには、従来のソフトウェアとは違う可能性があります。
情報を読み、状況を理解し、役割に沿って仕事を進め、必要なときに人へ判断を求める。
そうなれば、AIは毎回人が操作する道具である必要はありません。
会社の仕事の中に、最初からAIの役割を組み込むことができます。
「今日はAIを使った」と意識することさえなくなる。
それでも、会社の中ではAIが仕事をしている。
私たちは、そんな状態も企業のAI活用の一つの到達点ではないかと考えています。
AIがいるから、人はもっと人らしく働ける
AIが得意なことがあります。
大量の情報を読む。速く処理する。繰り返す。整理する。24時間動く。
人間が、それと競争する必要はありません。
人には、人の得意なことがあります。
人と話す。表情を見る。迷う。考える。誰かを育てる。新しいことを想像する。そして、最後に責任を持って決める。
AIを導入した結果、人間までAIのように大量の仕事を処理するようになったとしたら、それは少し違うのではないでしょうか。
AIによって人間の仕事を機械に近づけるのではなく、AIが機械に向いている仕事を担うことで、人が人らしい仕事へ戻っていく。
CODATIが目指しているのも、そんなAIとの働き方です。
社員全員にAIを使いこなすことを求めるのではなく、AIが会社の中で役割を持って働く。
人がAIに合わせるのではなく、AIが人の働き方に自然に溶け込んでいく。
そしていつか、
AIを使っていることを意識しなくても、当たり前のように人とAIが一緒に働いている。
そんな会社が増えていくのかもしれません。
“AI-driven intrusive surveillance and loss of autonomy at work linked to psychosocial risks for employees”
2026年4月30日 国際労働機関
Karunakaran, Kellogg, Wiesenfeld
“Experimentalist Intensification Governance: Managing Worker Negative Consequences Associated with Generative AI Innovation Work”
2026 SSRN
Microsoft Research / CHI 2025
“The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers”
Microsoft
Forbes
“What Is AI Burnout, And How Can It Be Avoided?”
2026年3月2日
企画・監修:株式会社TOKIWAGI
