これまで、上司がマネジメントする相手は人間でした。
仕事を任せる。進捗を確認する。困っていれば支援する。結果を評価する。そして、最終的な責任を持つ。
しかし、AIが単なる質問相手ではなく、自ら仕事を担当するようになったらどうでしょうか。
顧客からの問い合わせに対応するAI。毎日、売上データを確認するAI。社内の情報を整理するAI。契約やタスクの期限を監視するAI。
AIが会社の中で実際に仕事をするようになれば、いずれ企業は別の問題に直面します。
そのAIを、誰がマネジメントするのでしょうか。
AI時代に、管理職はいらなくなるのか
生成AIの登場以降、
「AIによって中間管理職は減るのではないか」
という議論もありました。
情報をまとめる。報告書を作る。進捗を確認する。会議内容を整理する。
こうした管理業務の一部をAIが担当できるようになれば、管理職の仕事も減っていく。
そう考えるのは自然です。
しかし、実際の企業では少し違った動きも始まっています。
Salesforceが2026年に500人以上の管理職を対象に実施した調査では、管理職の3分の2が、仕事の未来におけるAIの役割について楽観的に捉えていました。
同社はその結果を踏まえ、
AI時代には、マネージャーの重要性がむしろ高まる
としています。
なぜでしょうか。
AIが仕事をするようになるほど、
- 「AIに何を任せるのか」
- 「どこまで任せるのか」
- 「結果を誰が確認するのか」
という新しいマネジメントが必要になるからです。
これからの上司は、「人」だけを管理するとは限らない
Salesforceは2026年、AIエージェント時代の管理職について、
人間とAIエージェントが混在するチームを率いる
という考え方を示しています。
これは少し想像すると、かなり大きな変化です。
たとえば営業部に、
営業担当者5人。営業支援AI社員1人。市場分析AI社員1人。
がいるとします。
営業支援AI社員は、商談前に過去の取引や顧客情報をまとめる。
市場分析AI社員は、毎朝データを確認して変化を報告する。
人間の営業担当者は、それを踏まえて顧客と話し、提案し、判断する。
こうなると営業部長が見ているチームは、
人間5人ではなく、人間5人+AI2人
になります。
AIに給与面談をする必要はありません。
しかし、
何を担当させるか。どの情報を見せるか。どこまで判断させるか。どんなときに人へ報告させるか。期待した仕事ができているか。
という意味では、
AIにもマネジメントが必要になります。
AIの「能力」より、「権限」を決める仕事が増える
AIについて話すとき、
「何ができるか」
に注目しがちです。
文章を書ける。分析できる。メールを作れる。システムを操作できる。
しかし、会社で実際に働かせるなら、もっと重要な問いがあります。
「何をしてよいのか」
です。
たとえば経費処理を担当するAIがいたとします。
申請内容を見る。過去の申請を確認する。規程と照合する。不備を指摘する。
ここまでは任せる。
では、
申請を却下してよいのか。支払いを実行してよいのか。社員へ直接指示してよいのか。
これは別の問題です。
AIの能力と、AIに与える権限は同じではありません。
世界経済フォーラムも2026年、AIエージェントの企業導入について、エージェントがどの条件で行動を許可されるのかを明確にし、その権限を監視・監査できる仕組みが重要だと指摘しています。
つまりAIが自律的になるほど、
「できることを増やす」より、「どこまで任せるかを決める」
ことが重要になります。
これはまさに、マネジメントの仕事です。
AIが間違えたら、誰の責任なのか
もう一つ避けられない問題があります。
AIが間違えたときです。
AIが顧客へ間違った回答をした。AIが重要な異常を見逃した。AIが誤ったデータをもとに判断した。AIが、本来アクセスすべきではない情報を使った。
そのとき、
「AIが判断しました」
で終わる会社はありません。
AI自身が責任を取ることはできないからです。
だからAIに仕事を任せるほど、
誰がそのAIの仕事に責任を持つのか。誰が結果を確認するのか。どんな判断は必ず人間へ戻すのか。
を決める必要があります。
世界経済フォーラムがAIエージェントのガバナンスで強調しているのも、こうした人間による説明責任と監督です。
AIが自律的になればなるほど、人間が不要になるのではなく、
人間の責任の置き場所を、より明確にする必要がある。
ということです。
上司の仕事は「作業管理」から変わっていく
これまで管理職は、多くの時間を管理業務に使ってきました。
情報を集める。資料を作る。進捗を確認する。会議を設定する。報告をまとめる。
Salesforceは、自社の管理職向けAI「Manager Agent」を導入し、こうした管理業務をAIに支援させています。
同社によれば、導入から1年で管理職に5万時間以上を戻したとしています。
しかし、興味深いのは、
「だから管理職を減らした」
という話ではないことです。
戻った時間を、
社員のコーチング。問題解決。チームづくり。人材育成。
といった、人間のマネジメントへ使うことを目指しています。
AIによって管理職がなくなるというより、
管理職から「管理作業」が減っていく。
と考えた方が近いのかもしれません。
Microsoftは「仕事そのものを再設計する」と表現している
Microsoftの2026 Work Trend Indexでは、AIエージェントが仕事を実行するようになる中で、リーダーに求められる役割を、
仕事を再設計すること
として捉えています。
これは、単にAIツールを導入する話ではありません。
この仕事は人が担当する。この仕事はAIが担当する。ここはAIが下準備をする。ここから先は人が判断する。この判断には承認が必要。この情報にはアクセスさせない。
こうした境界を設計する。
つまりAI時代のマネジメントでは、
「人をどう動かすか」だけではなく、「仕事を誰にどう分けるか」
という役割が大きくなります。
AI社員にも「上司」が必要になる
私たちは、AIが会社で役割を持って働く存在を「AI社員」と呼んでいます。
ただし、AI社員だからといって、人間とまったく同じ社員になるわけではありません。
むしろ重要なのは、
人間とは違う働き手だからこそ、役割と権限を明確にすること
です。
何を担当するのか。何を見てよいのか。どこまで自分で進めてよいのか。どの段階で人へ相談するのか。誰がそのAI社員の仕事を見るのか。
こう考えると、
AI社員にも「上司」に相当する存在が必要になります。
それは必ずしも、一人の管理職とは限りません。
業務責任者かもしれない。部門長かもしれない。会社として決めたルールかもしれない。
重要なのは、
AIを野放しにしないことでも、すべて人が操作することでもない。
役割を与え、権限を決め、必要なところで人が責任を持つ。
という関係を作ることです。
AI時代に問われるのは、「誰が偉いか」ではない
「AIの上司は人間なのか」
と考えると、少し奇妙に聞こえるかもしれません。
しかし本当に重要なのは、
人とAIのどちらが上なのか、
ではありません。
誰が何を担当し、誰が何に責任を持つのか。
です。
AIが得意な仕事はAIへ。人が判断すべき仕事は人へ。AIが迷ったら人へ戻す。人はAIの仕事を監督する。そして、人とAIが同じ目的に向かって働く。
AIが会社の中で仕事をする時代になるほど、
必要になるのはAIを使う技術だけではありません。
人とAIを含めた「組織をつくる力」
なのかもしれません。
AIと働く会社では、上司の仕事も変わっていく。
私たちは、そう考えています。
AI社員を含む組織をどう設計するか。
その具体的な考え方については、CODATIで詳しく紹介しています。
「最新データ 『AI時代に中間管理職がさらに重要になる理由』」
2026年7月3日
Salesforce
“More than 50,000 Hours Back: What a Year of Manager Agent Taught Us”
2026年5月21日
Microsoft
“2026 Work Trend Index Annual Report: Agents, human agency, and the opportunity for every organization”
2026年5月5日
World Economic Forum / Capgemini
“AI Agents in Action: A Playbook for Trusted Adoption, Authorization and Scaling”
2026年5月26日
※各調査・事例は、それぞれ対象や利用環境が異なります。AIエージェントの導入効果や組織への影響がすべての企業で同様に生じることを示すものではありません。
AIが会社で仕事をするなら、当然、会社の情報にアクセスする必要があります。
では、どこまで見せるのか。何をさせてよいのか。そして、何をさせてはいけないのか。
次回は、AIと企業データ、権限、セキュリティの関係を考えます。
企画・監修:株式会社TOKIWAGI
